よくあるご質問
一般的なご質問
Q&A (低身長編)
一方で、成長ホルモン不足自体がいろいろな障害をきたすことも知られています。最も問題になるのは炎症を伴う脂肪肝、 NASHナッシュ、NAFLEDナッフルドです 。特に成人になると成長ホルモン不足がこの状態を起こし、 後年肝細胞癌に発展する危険性が高いことが知られています。 それ以外にも、 成長ホルモンの不足は免疫系の異常、血球細胞の異常、 低血糖症、 などの原因となります。
一方でホルモン欠損の程度の軽い方の場合には、成長が終わった段階で投与を終了することになります。成長が終わったかどうかは1年間の成長の伸び率や、骨端が開いているかどうか、血液中のアルカリフォスファターゼの値が成人値になっているか、によって判断します。
当院では血液検査の結果は30分程度で大半が分かりますので、その結果を直ちにフィードバックをしています。
Q&A(発達編1)
私は、DSM-5(2013年公表)に基づき、先行するDSM-Ⅳ(1994年)、DSM-ⅢR(1987年)を参考にして判断しています。DSMシリーズはアメリカ精神医学会の作成した診断基準集です。これは「操作的ーチェックリスト形式」で、そのような方式に批判的な意見があるのは確かです。しかし、発達に関係した精神疾患は最近広く知られるようになったもので、その診療、研究はDSM各版と歩みを共にしています。この領域に関してはDSMを参考にする以外方法がないと考えています。
WHOが作成したICDもあります。厚生労働省の公的な立場はこちらを基準としており、文部科学省もそれに従っています。ICD-9、-10、-11はどれもDSMの発表3-5年後に公表されており、その内容はDSMを完全に踏襲したもので、診断名が多少異なっている程度です。
診療に使用するには、DSMの方が論理的構造が明確で使いやすいので、これを用いています。さらに、DSM-5には、学校や就労の現場での「困り」を極力取り上げようとする努力が見られ、そのために新しく導入された疾患概念がいくつかあります。これらは非常に有益と考えられます。
ただし、日本語版の翻訳には問題はあります。DSM-5にはいくつか致命的な誤訳があり、ICD-10の翻訳は全体として日本語になっておらず意味の通らないところが多い文章です。(前置詞熟語、語彙数がやたらと多い点、英語はドイツ語やフランス語よりずっと難しい言葉ですね。英語圏に学習症が多いわけだ)翻訳の問題については別の項目で述べます。
DSM-ⅢR以降の3つのバージョンのどれにも「発達障害」は使用されていません。DSM-ⅢRでは「幼少期、小児期または青年期に発症する障害」、-Ⅳでは「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」-5では「精神発達症群」となっています。「精神発達症群」は発達障害に似ていますが別物です。
「発達障害」は、日本の行政機関(厚生労働省、文部科学省、内閣府)が新しく作り出した用語と考えています。法律の名称にもなっています。同じように日本の行政機関が作り出した言菓に、「成人病」「生活習慣病」「難病」などがあります。これらはそのまま英語に訳しても他国には理解されないわが国独目の用語です。成人病をそのままアダルトディジーズと訳したところ性感染症と間遵えられた、難病をそのままイントラクタプルディジーズと訳したところ「冶療不可能なら研究しても無駄じゃないか」といわれたなどの曰くがあります。
「発達障害は、そのまま英訳しても理解されますが、ここには脳や中枢神経と言う臓器は反映されていません。脳性麻痺は純粋運動系の発達障害ですし、ケトン性低血糖は肝臓の代謝系の発達障害、弱視(医学的弱視)は視覚系の発達障害、低身長は骨幹端の発達障害、どれも発達障害です。「発達障害」で中枢神経系発達の一部を意味させるのは無理が過ぎます。
もう一つの問題は、発達障害の名の下にひとくくりにされている、自閉スペクトラム症、 ADHD、限局性学習性、 知的能力障害、等はそれぞれ全く別個の概念で独立なものです。発達障害とまとめて扱いきちんと区別しないことは、混乱の原因になっています。
ADHDの概念を勝手に拡大解釈している場面がしばしば見られます。私は、ADHDの拡大解釈は厳に慎むよう努めています。
ADHDの診断基準は、不注意症状の9項目中5ないし6項目を満たす、多動性衝動性症状の9項目中5ないし6項目を満たす、この2つの双方または片方を満たすことに加えて、発症年齢が12歳未満であること、症状が客観的に見て生活に大きな支障を与えている、他の症状が除外される、これらの条件を満たすことです。
不注意症状の9項目を見ると、忘れ物やうっかりミス、ぽんやりなど誰でも見られるような症状ばかりが並んでいます。多動症状も、走り回ったりしゃぺりすぎたり元気の良い子どもではよく見られるような症状ばかりです。最後の衝動性3項目は、他人に迷惑をかけるレベルの行動と言えるかもしれません。全体として、これらの行動特徴を持っていても、必ずしも社会生活での客観的困り感にはつながらないと思われます。
コミニケーション障害、こだわり、暴力、反社会的行為等はADHD診断基準には含まれません。ADHDの診断基準に含まれない症状を無視してADHDと診断するのは、「ADHD概念の勝手な拡大解釈」といってよいのではないでしょうか。その症状を適切に説明できる疾患の診断をつけなければなりません。自閉スペクトラム症、限局性学習性、反抗挑発症、素行症、双極性障害、等がそれに含まれます。ADHDとこれらの疾患の相互関連については別項目で述べます。
ADHDの拡大解釈が横行している原因は分かりませんが、抗多動薬の開発、販売プロモーションに関係があるのかもしれません。
Q&A(発達編2)
まず用語を整理します。DSM-Ⅳで使われていた「アスペルガー障害」「その他分類不明の広汎性発達障害」という疾患名はDSM-5では削除され、「自閉スペクトラム症」に一本化されました。これらを包括するグループ名の「広汎性発達障害」も「自閉スペクトラム症」に置き換えられました。 従って「自閉スペクトラム症」は現在、疾患名でもあり、その疾患を包括するグループ名でもあるわけです。グループ名としての自閉スペクトラム症の下にあるのは、1つの疾患、自閉スペクトラム症、だけになっています。DSM-Ⅳではここに5種類の疾患が入っていましたが、単純化されたことになります。
また、disorderを「障害」と訳す「悪しき伝統」(自閉症は精神疾患の一種で、精神疾患の帰結としてのディスアビリティではありません)からも脱却することになったため、自閉性障害、自閉スペクトラム障害、という用語もなくなりました。「自閉スペクトラム症」だけが使われることになったわけです。これを省略した「自閉症」という語は使ってもよいのではないかと個人的には考えており、以下でも使用します。 「高機能自閉症」という語は現在でも使用可能と思います。しかし、高機能=知的に正常、と、低機能=知的能力障害を伴う、を明確に分類するのは困難な場合が多く、わざわざ「高機能」と強調すべきではないと思われます。DSM-5では、知的能力について別個付記することになりましたが、これは適切な方法です。
自閉症診断に必須の症状は、Loma Wingローナウィングの3徴候すなわち、社会性障害、言語発達障害、多様性柔軟性障害、と考えられてきました。DSM-5ではここに大鉈をふるい、言語発達障害を診断基準から除外してしまいました。従って、現在の診断基準は社会性障害3項目(対人相互性、非言語コミュニケーション、仲間関係意識の障害)、多様性柔軟性障害4項目(受容、変化耐性、表出、感覚)の2領域からなっています。前者の3項目全て、後者の4項目中2項目を満たすことが診断に必要となります。さらに、これらの症状が生活上の確定的な困りをきたしていること、発達期早期の発症であること、他の疾患が除外できること、を満たせば診断されることになります。
言語発達障害を診断基準から除外した事は大英断でした。診断基準に言語発達障害が含まれることと、言語発達障害のない「アスペルガー障害」という概念の存在が表裏の関係になっていましたが、両者ともに捨て去ることで自閉症の本質がよく見えるようになりました。言語発達障害は自閉症の本質ではなく、合併した症状とされています。ただし、DSM-Ⅳで診断を受けた方が、DSM-5で、あなたは実は違います自閉症ではありません(アスペルガー障害でもありません)、と言われることがないかが1つの問題です。これについては「移行規定」があり、既存の診断確定者はそのまま新バージョンでも診断を継続すると明記されています。 診断にあたっては、重症度分類、重度、中程度、軽度の3段階、が必要です。これは必要な支援の程度によって分けられ、極めて高度の支援を要する場合重度とされます。学校や職場での個別の支援が必要になるのは、中程度以上の重症度になると思われます。
自閉症に伴う障害として、先ほど述べた言語発達障害に関して記載する必要があり、さらに、知的発達障害、カタトニアについても言及が必要です。 自閉症の診断にあたって考慮しなければいけないこととして、構造化面接バッテリーや行動観察バッテリーの活用があります。DSM-5でも、これらが診断上有益であるとされています。当院では構造化面接バッテリーを実施し、その結果を参考に、DSM-5項目に基いて診断しています。
多動や不注意は様々な原因から起こってきます。被虐待、不安障害、強迫性障害、知的能力障害、物質依存性障害などの精神疾患だけでなく、甲状腺機能亢進症などの身体疾患でも起こります。したがって多動や不注意の原因は幅広く考える必要があります。中でも、自閉スペクトラム症、知的能力障害、被虐待は頻度も高く、治療上も重要なので、可能性を十分検討しなければなりません。
多動と不注意の症状があればADHDの症状基準を満たしますが、診断としては上記のように幅広い可能性を考える必要があります。いっぽう、純粋な多動不注意のみの方で社会のおける確定的な困難をきたす事は滅多にないと思います、ADHDの基準と他の疾患の基準を同時に満たす場合、どう考えるべきでしょうか。
不安障害、強迫性障害、物質依存性障害、統合失調症がある場合、現在の基準でもADHDと診断することはできません、多動、不注意は原疾患により完全に説明できると判断します。原疾患の圧倒的な影響下にあると思われ、この方針は異論のないところでしょう。
次に自閉スペクトラム症ですが、DSM-Ⅳでは、自閉スペクトラム症とADHDの併存は許されていませんでした。DSM-5ではこの点が緩和され、両者の併存が可能になりました。ADHDの症状基準には、社会性障害や多様性柔軟性障害は含まれていませんので、これらの症状を持つ方に対してADHDだけとするのでは不十分で、両者を診断する必要があります。私は、実は自閉スペクトラム症の諸症状によって多動不注意を説明できると考えています。つまりADHDを追加的に診断しなくても自閉症のみで十分ということになり、実は、両者の併存を可能にする必要はなかったのかもしれません。ただし、幼児期自閉症で多動が著しく強い場合、学童期で不注意が著しく強い場合について、多動不注意をADHDと言う診断名によって際立たせる事は悪くないと考えています。このことは、特に薬物療法を行う際に重要になります。
薬物療法については後述しますが、私は、現在使用されている3種類の抗多動薬はいずれも、純粋タイプのADHDではなく、自閉症、非虐待、知的能力障害などに続発した多動不注意に特に効果があると考えています。
知的能力障害、言語発達障害、ADHD、カタトニア、数種の全身疾患、などがそれにあたります。
自閉症者の知的発達障害に関して、合併、境界線上、非合併の比率が4対3対3というデータが米国から発表されています。知的能力障害の診断は、(1)知能検査において得点が低いこと=70ないし75をきること、(2)社会生活上の適応機能が低いこと、の2項目双方に該当する場合に下されます。自閉症の知的能力障害を判断する上で困難なこととして、まず知能検査への回答が質的障害、まだら状、を呈することが多い点があります。つまり高度なことがクリアできるのに、比較的容易なことができないという特徴が見られます。知能検査の判定では、全体の平均値をだすことになりますが、その構成実態は非常に粗密が大きいものです。また、知能検査実施にあたっては回答者のモチベーションが重要になります。やる気が出なければ回答としないと言うことで、これも問題になります。
2つ目の適応機能診断ですが、これもまだら状が少なくありません。比較的高度な社会機能が果たせるのに基本的なことができない状態がみられます。保育園で、先生とは難しい言葉を使ってコミュニケーションがとれるのに、同級生とは会話ができない、高度なプログラミングをこなすのに日常生活習慣が保てない、ごく簡単な指示代名詞、こことそこの違いがわからないといったことが見られます。
次に言語発達障害ですが、これも知的能力障害と同様の現象が見られます。全般的な発達遅れがみられることもありますが、まだら状の発達つまり比較的高度な事は達成できるのに容易な低レベルのことが達成できていない現象がみられます。また言語受容能力と表出能力の著しいアンバランスが見られることもよくあります。このような言語発達障害の一部は、社会障害によって説明できるもので、また多様性柔軟性の障害の視点から理解できる部分、心の理論能力、中枢性統合、実行機能障害などによって説明できる部分もあります。自閉症の言語能力はいろいろな側面から見ることができ、総合的な表現型として現れてくるといえます。このような言語能力を把握するには、知能認知能力検査、特に各下位検査結果のバラツキをみることが有意義です。
自閉症に関わるもう一つの大きな問題として、自閉症は家系内に強い集積を示す、言い換えると遺伝子が強いと言う問題があります。同居の家族との関わりにおいて、類似したコミュニケーション、多様性柔軟性症状を持つ者がいることは、生育に当たって大きな影響を与えます。自閉症の遺伝を適切に評価するためには、近親者の症状の評価が重要になります。必ずしも症状が全面的に現れているとは限らないため、緩和した基準が必要になります。ブロードスペクトラムと言う視点によってこれを判断するアイデアがあり、有効と考えられます。
自閉症の症状を呈する身体疾患として、ダウン症候群、ターナー症候群、クラインフェルター症候群、などが知られています。ダウン症候群は基本的には非常に人なつこく、コミュニケーション良好の方が多いですが、知的能力障害の強い方の一部で自閉症が見られます。ターナー症候群では、残存するX染色体が父由来か母由来かが影響するようです。クラインフェルター症候群でもX染色体の機能調節障害があるため自閉症症状が発現する場合があります。
先天性風疹症候群の一部にも自閉症が見られます。これについては妊婦が風疹を罹患した時期により、出生児に自閉症が発症すると知られています。難聴をきたす時期より少し後の在胎12週から18週あたりの風疹感染が原因となると思われています。
自閉症が、遺伝子レベルないし出生前の原因で起こる事は間違いありません。エピジェネティクスな要因の関与は、あくまでも遺伝情報の発現調節レベルでの影響と考えます。出生後の諸要因の影響について、予防接種の影響などというのは全くの笑い話ですが、生育状況の影響は考慮する必要があります。例えば乳幼児期に著しい虐待を受けて育った子供たちに自閉症に類似した症状が出ることが知られています。例えば、旧ルーマニアの政治犯の子供の強制収容所ではそういった現象が見られたと報告されています。
自閉症を症状によって3つのサブカテゴリー、自動型、孤立型、積極奇異型、に分ける考え方があります。DSMではこの分類は取り入れられていません。BSMの分類は、支援の必要度に基づいて、重度、中等度、軽度と分けています。あえて言えば、受動型は軽度、孤立型は中等度、積極奇異型は重度にあてはまるかもしれません。
Q&A(発達編3)
ADHDの診断基準症状は、不注意症状と多動・衝動性症状からなります。
不注意症状は9項目がありますが、これは3項目ずつ3グループに分けられます。この3グループは個人の内的機能から対外機能に向けて並んでいます。個人の注意機能が3項目、実行機能が3項目、生活機能が3項目です。つまり、その個人が内部に持っている本質がどのように実際の作業実行に現れ、さらにどのように生活への影響を与えるかという順で並んでいるということになります。注意機能グループは、大ざっぱ、集中持続困難、うわの空の3項目、実行機能グループは、完遂困難、順序立て困難、努力回避の3項目、生活機能グループは、紛失、被転導性、失念の3項目からなります。
次に多動症状6項目ですが、これも3項目ずつ2グループに分かれています。初めの3項目は、「目に見える」多動で、次の3項目は視覚以外の感覚に感じられる多動です。「目に見える」多動は、非移動性多動、離席、移動運動多動の3項目で、視覚以外の感覚に感じられる多動は、静粛困難、内在性多動、過剰発話の3項目です。最後に衝動性の3項目があります。これは、言語割り込み、行動割り込み、妨害性の3項目からなります。
ADHDは3つのタイプ、不注意優勢型、多動・衝動性優勢型、混合型に分類されますが、不注意優勢型では不注意症状9項目のうち6項目(青年期以降では5項目)以上を満たすこと。多動・衝動性優勢型では、多動・衝動性9項目のうち6項目(青年期以降では5項目)以上を満たすことが求められます。両者の基準を満たす場合、混合型と呼ばれます。
私は、多動や不注意症状が純粋で存在して、それが本格的に社会生活上の混乱をきたすことは極めてまれと考えています。社会生活上の困難につながるのは、他の疾患により2次的に発現している場合に限られ、特にその大半が自閉スペクトラム症の症状であろうと考えています。ただし衝動性があれば、それだけで困難につながりますが、そのような例では、反抗挑発症と診断すべき場合が多いと思われます。
自閉症症状としての多動不注意という視点から考えると、年齢に伴い症状がどう変化するかが理解できます。乳幼児期自閉症では、感覚過敏や心の理論課題未通過による混乱で、不注意よりも多動症状が前面に出ます。学童期後半以降、それらが改善した後の残存症状として、不注意が前面に出てきます。ただし、感覚過敏や心の理論能力未通過が残りやすい知的能力障害を伴う自閉症では多動が長期残存すると考えてよいのではないでしょうか。
発達の問題を抱えた方の行動上の問題について考えます。まず行動障害の分類ですが、自分自身に向けられたもの、面前の相手に向けられたもの、より広い対象に向けられたものとする3分類が可能と思います。次に重症度を軽症、中等症、重症と3分類できます。重症度をどこで線を引くかですが、ADHD症状レベル[A]、反抗挑発症症状レベル[O]、素行症症状レベル[C]と分けてはどうでしょうか。
自分自身:[A]多動 [A]不注意 癇癪 引きこもり 自傷 売春 自殺企図
面前の相手:[O]イライラさせ [O]いじめ [O][C]暴力 [O][C]暴言 [C]恐喝 [C]脅迫 [C]性的強制 [C]窃盗
広い対象:[A][O]衝動性 [C]家出 [C]万引き [C]社会機能妨害 [C]放火
原因疾患によって分ける方法もあると思います。原因疾患としては先ほど挙げた3種のほかに様々な精神疾患が考えられますが、特に躁病やその周辺を取り上げる必要があります。
まず軽症の行動障害から見ていきたいと思います。多動・不注意は最も軽症の状態で、定型発達の方でもしばしば見られる行動です。ただし、ADHDの衝動性3項目は、それだけで周囲に迷惑をかける要因になりえます。しかし衝動性が非常に強い場合は、ADHDではなく、反抗挑発症と診断すべきです。
次のレベルとして、癇癪爆発、誘因のない舞い上がりなどの症状が見られます。癇癪爆発の表れとしては、物に当たって破壊する、暴言を吐く、ものを投げる・・これは人のいない方向に投げる場合と人がいるところに投げる場合があります。ものに当たることが悪化すれば対人攻撃にも発展します。対人攻撃の場合には単なる癇癪ではなく、より強い行動障害になります。
DSM-5では癇癪爆発、誘因のない舞い上がりの説明として、反抗挑発症以外にいくつかの疾患を紹介しています。特に考慮すべきは、躁症状としての癇癪爆発や舞い上がりです。双極性障害の中で、双極1型、2型は発達期に発症する事はないと考えられています。したがってより未分化なタイプを考える必要があります。間歇爆発症、気分循環性障害、重篤気分調節症がそれにあたります。
まず間歇爆発症ですが、これは、反抗挑発症と素行症の中間の状態として今回新たに記述されています。癇癪爆発を繰り返し、それが周囲に大きな迷惑を与えることが特徴とされています。次に気分循環性障害ですが、これは双極性障害の1つで、双極1型、2型より未分化な双極状態を示す疾患とされています。3つ目の重篤気分調節性ですが、これは抑うつ症のグループに入っています。ベースに強い抑うつがあり、それが間歇的に爆発をきたす状態とされています。
反抗挑発症や、強い癇癪爆発などは、家族や学校教員に対しても強い影響を与えます。したがってこれらの周囲の方に対するサポート、ケアも重要になってきます。さらに素行症では、医療機関だけでできる事は限られていますので、適切なセクション、特に行政・司法との連携が重要になってきます。
非常に混乱の強い場合には、一旦社会から切り離す方策も必要かもしれません。また引きこもり、自傷、売春、自殺企図に関しては、それぞれ非常に大きな問題で、他の行動障害とは区別して別個に取り上げるべきと思われます。
Q&A(発達編4)
まず最初に強調しておきたいのは、知能・認知能力検査は自閉症の診断を行うものではなく、またADHDの診断にも役立つものでもないことです。知的能力障害の診断ではかなり有力なデータになりますが、その診断にも社会生活適応状況というもう一つの重要な条件を満たす必要があります。
もう一つ、同じ種類の検査を1ー2年程度の間隔で繰り返し行うことは不適切であることも強調の必要があります。構成検査を手順通りに進めていくものですので、1ー2年程度で繰り返すと前回の記憶が残っており、練習効果が出現して得点が上昇する現象が出現します。WISCーIIIの構成検査にパズルがありますが、繰り返しこれを受けた6歳の男の子の発言を紹介しましょう。「あっ、知っとー知っとー、こい、やったことあるバイ。サッカーボールの出くっとやろ。(サッカーボールを作りながら)次も覚えとー、馬やろ、赤かとやろ。覚えとうけんすぐ出くっバイ。」
検査の得点が真の値を上回って、見かけ上高くなる現象はめったにみられず、ほぼ上の場合のみと思われます。一方、見かけ上低くなることはしばしば見られます。検査を受けているという文脈が飲み込めていない、「やる気」がない、真剣に取り組まずワザと手を抜く、などの場合、視覚、聴覚に器質的障害があり課題内容を正確に受け取れない場合、運動障害、緘黙、カタトニア等によって表出能力に障害がある場合、いずれも低い得点になります。検査結果の解釈にあたっては、このような要因を考慮する必要があります。
知能・認知能力検査は10ないし20種類の構成検査から形作られています。被験者にこれを解いてもらい、各構成検査ごとの得点を算出し、年齢月齢該当の標準的な分布(正規分布を仮定します)にあてはめ、その得点が平均から見てどの位置にあるかを算出します。さらにこの平均からの位置を、構成検査のグループ=知能領域ごとに足しあわせ、その結果を知能領域ごとの年齢月齢に該当する標準的な分布にあてはめ、その得点が平均から見てどの位置にあるかを算出します。各検査には誤差があり得ますのでそれを考慮して、知能領域相互の間で明確な差異があるのかどうかを判定します。構成検査、知能領域それぞれの得点の、平均からの位置を表とグラフに記入します。知能領域相互の差異があるのかどうかを記載して完成です。
知能・認知能力検査は何を見ているのでしょうか。「知能」の定義自体が「知能検査になって測られるもの」という側面が大きいです。これは、18世紀前半にフランスのビネーが知能概念を初めて取り上げた時にさかのぼる歴史的事象です。また、知能は単一の数字で表される統一的なものなのか、あるいは複数要素として表されるべきなのか、さらに複数要素から統合的な数字を出してよいのか、という問題もあります。要素に分かれているとした場合、それらを、大分類、小分類のように層別の構造を持つのか点も検討が必要です。
ビネーは、単一の数字で表される統一的な実態として捉えていました。しかし、その後、複数要素という考え方が広く認められてきました。構成検査の得点の底に流れる複数要素を発見し、それを分解識別するための重要な手段が因子分析法という統計解析技法です。これは、数多くの事例から得られたデータを分析し、そこに隠れている共通要因を見つけ出す方法です。実は知能検査の発展は、この因子分析法の開発がなければ考えられませんでした。もう一つ、この因子分析法には膨大な計算が必要ですので、それを可能にしたコンピューターの発達がこの領域に寄与しています。
自閉症の診断基準症状には入らないがそのすぐ周辺にある重要な症状=中核的症状として、(1) 心の理論能力障害、(2) 中枢性統合障害、(3) 実行機能障害、(4) 知的能力障害、(5) 言語発達障害、があります。さらに、自閉症の方の成育環境に大きな影響を及ぼす要因として、(6) 家系内集積の強さ、もあります。
まず、心の理論能力は、他者は自己とは異なる独立した存在で、私とは異なる独自の認知のもとに独自の判断を行っているということを直感的に把握する能力のことです。別の言い方をすると、他の人にはその人の心がある、ということがわかっているかどうか、と言うことです。いわゆるKY=気持ちが読めない、ではなく、他者の判断を洞察する根源的な能力を問題にしています。この能力は親に教わるとか、幼稚園保育園で教わると言うものではなく、いつの間にか人間の精神発達の途上で身に付いた能力です。
次に、中枢性統合ですが、これは全体と部分の関係、抽象的な概念と具体事物との関係、言葉と事物の関係などを直感的に把握する能力です。例えば、トラックと言う概念は、運転席の後に荷台が付いていて、荷物を運ぶことができる自動車のことです。ですから青に塗装したトラックでも赤に塗装したトラックでもすべてトラックです。中枢性統合能力が正常に発達している方は、青でも赤でも、「トラック」という抽象的概念が具象化された事物として認識することができます。しかし中枢性統合障害のある方では、最初に見たトラックがたまたま赤に塗装されていて、そこでこの概念を学習すると、赤いトラックしかトラックではないと言う判断になってしまいます。この能力も、親に教わるとか、幼稚園保育園で教わると言うものではなく、いつの間にか人間の精神発達の途上で身に付いた能力です。
3つめの実行機能ですが、ひとまとまりの作業=立案、準備、進行、監督、完成、検収、終了、と言う一連の流れを順調に段階的に進めていくと言う機能です。これはおもちゃ箱の片付けから、宿題をやる、宴会の幹事を務める、会社を経営する、まであらゆる場面で必要となる、人間の基本的技能です。学齢期以前には、実行機能を強く求められる場面は少ないと思われます。しかし周囲の要求が高まり日常生活を上回る、学校や職場等での困り感を説明する際に極めて有益なメカニズムです。この能力は学習や訓練で伸びると思われますが、その根幹はいつの間にか人間の精神発達の途上で身に付いた能力と言えます。
これらの能力の欠損が自閉症の方ではしばしば見られます。この3つの障害は、自閉症で特徴的に見られ、生活上も大きな影響与えます。しかし、自閉症の本質にどこまで関わるかと言えば、診断基準項目である社会性、多様性柔軟性の問題と比較して重要度が落ちると考えられます。加えて知的能力障害や、言語発達障害、も大きな問題です。もう一つ重要な視点として家系内集積と言う問題も挙げられます。
知的能力障害は、(1) 知能が低いこと、(2) 社会的適応機能が低いこと、の2つによって定義されます。知的能力障害がどのような社会生活上の影響を与えるかが重要です。
子ども時代から成長し、成人して生涯を送る上で、社会生活のさまざまな技能を高めなければなりません。これはその方の能力レベルに応じて考え、自分自身の健康や気持ち、身の回りのこと、家族や友人との関わり、異性との関係、新しい家庭が築けるか、教育、就労の場での振る舞い、コミュニティーの中での振る舞い、などそれぞれについて解決する必要があります。
教育については、現在、小学校就学から、高校卒業までは、教育システムが法的に確保されています。しかしそれ以前及びそれ以降の能力開発については未開拓の状態です。職場や社会生活でのスキルを高めるための生涯教育の視点は重要で、現在文部科学省が検討を行っているようです。
障害者雇用促進が国全体として取り組まれています。しかし、肢体不自由や、視覚聴覚障害等に比較して、知的能力障害の就労については、業種がかなり制限される傾向があります。また、ICTの活用が進み、極めて単純な作業が機械化されるという現状があります。知的能力障害に対しては、どうしてもいわゆる3K職場が紹介される傾向があり、そのような職場で安全に健康を保って長期働くと言うことが保証される必要があります。生涯設計を考える上では、就労以外にも、経済的な活動、投資や貯蓄、相続などの問題があります。政治への関わり、投票行動や、政治的意見表明をどうするのか、制度を考えなければなりません。
より個人的なこととして、新しい家庭を築く、恋愛結婚、出産、子育て、などをどのように進めていくかや、適切な余暇の過ごし方も重要です。狭い興味にとらわれたり、不適切な出費、アルコールやタバコの問題、不適切な交友関係等のリスクがあります。これらを避けて心身をリフレッシュし健康を保つための指導が必要です。