行動・学習・就労支援ユニットの流れ
どのような問題が受診契機になるか。(1) 行動面の問題、生活での問題
- 多動性、衝動性
- 対人関係の問題
会話が成立しない
仲間関係が築けずトラブルが多い
最低限の対人コミュニケーション能力に欠けていてトラブルが多い - 生活に支障をきたすほどの極端なこだわり
- 対人暴力、暴言、癇癪
- 授業妨害
- 反抗挑発症状、素行症症状
- 不登校
- 夜尿(非器質的遺尿症)
- 肥満(摂食、消費バランス障害)
どのような問題が受診契機になるか。(2) 学習面の問題、職場での問題
- 就学、進路選択の問題小学校入学時にどの学校、学級を選ぶか進級時の学級選択進学、就職時の判断をどうするか
- 学習の問題特定領域(聞く・話す・読む・書く・計算・図形/立体の把握・推論・英語)が著しく苦手特定の1-2科目に限り他と比べて著しく成績が悪い多くの科目の成績が悪い
- 全般的な知的能力の問題(学校だけでなく日常生活全般に困難がある)
- 不注意
- 職務上の諸問題
診療開始にあたって
当院より診断治療という一連の医行為をご提供することが可能ですが、これは受診される方の自由意志に対しての提供になります。
成人に関して、本人が受診を承諾(希望)することが診療の出発点(治療契約)になります。
本人が家族とは意思が異なる場合に、両者のご意見が一致するようにお手伝いすることはできますが、最終的にご本人に納得していただくことが必要です。
乳幼児、学童期、知的能力障害、緘黙状態では、意思決定・表出が困難で、保護者(親権者)代諾に頼らざるを得ない場合があります。
学校、幼稚園保育園、教育委員会などから受診を勧奨されたが、本人も保護者も全く承諾していないとなると、診療に入れません。
ただし、当初「学校から言われたので意思に反してやむを得ず来院した」と思っておられても、実は強い「困り感」をお持ちということもあります。
困り感が明確になれば「やはり受診を希望します」という判断が表に出てくる場合もあります。
そのような困り感明確化のお手伝いはできます。
問診
これまでの経緯および現状をうかがいます。
幼児期学童期、知的能力障害、緘黙などのため言語表出が困難な場合、ご本人からの情報が客観性に問題のある場合は、ご本人からの聴取に加えて、保護者からもお話しをうかがいます。
場面ごとの経緯、現状、困り感をうかがいます:(学校・職場・福祉施設での行動、対人コミュニケーション、学習、就労において家族、友人間その他の場面での現状)
半構造化面接
あらかじめ設定した項目に沿った面接聴取を行います。
(成育歴、既往身体疾患、就学・就労状況、発達状況(言語、対人コミュニケーション、構音、移動運動、巧緻運動、算数能力の状況、学業成績、その他)睡眠、生活状況、物理的心理的重大経験、臨床遺伝学的情報)
言語表出が困難な場合、客観性に問題のある場合は、ご本人からの聴取に加えて、保護者からも面接聴取します。
発達に関しては周産期、乳幼児期に関する情報が必須です。
第3者視点情報聴取
診断基準において、複数の場での症状、困難の確認を求められている疾患に関して、本人、保護者以外の視点に基づく情報が必要な場合があります。
本人、保護者、当該第3者それぞれの完全な承諾が揃えば、第3者(教育施設、福祉施設の直接的担当者など)からの情報提供をお願いすることがあります。
全般発達評価
5歳未満に対して、遠城寺式乳幼児発達検査を実施します。
この検査は発達領域が適切に6分類されており、通過項目分布の視覚化(まだら遅滞の有無)も有効です。考案者(遠城寺先生一門)のHans Aspergarとの交流をうかがわせます。
知的能力障害の診断
DSMでもICD-10でも、知的能力障害の診断には
(1) 知能検査での低得点、
(2) 適応機能の低下、の2点の証明が必要です。
(1)は知能検査を行い、(2)については定性的評価で不十分な場合、ヴァインランドII(全年齢対象)、S-M社会生活能力検査第3版(乳児ー中学生)を用いて定量的評価を行います。
認知機能、知能発達評価
5歳未満では田中ビネーVを行います。5歳以上では、ウェクスラー理論に基づくWISC – IV(5-16歳)WAIS – III(16歳以上)、ルリア理論に基づくDN-CAS(5-17歳)K-ABC II(2歳6ヵ月 – 18歳)を行います。
ウェクスラー理論では、視覚巧緻系、聴覚言語系の2系統をそれぞれ結晶性、流動性の2分野に分けた4領域の能力を測定します。
ルリア理論の基本は、同時処理と継時処理の2領域ですが、これに加えてプランニング・計画、注意・学習の2領域を測定します。
これらの検査はすべて当院で行っています。他施設での検査結果は、拝見できれば参考資料として重要ですが、当院受診前にあえて実施していただく必要はありません。
練習効果があり、期間を空けずに繰り返し実施することで信頼性が低下します。
自閉スペクトラム症症状評価、診断
PARS-TR、ADI-Rの数値を参考にし、DSM-5の診断基準に従って診断します。
社会性障害症状、多様性柔軟性障害症状それぞれの何項目が陽性か、心の理論能力、中枢性統合能力、実行機能、発症年齢、生活多方面への影響、他疾患の症状でないか、を判定します。
ADHD症状評価、診断
DSM-5の診断基準に従って診断します。不注意症状、多動症状それぞれの何項目が陽性か、発症年齢、生活多方面への影響、他疾患の症状でないか、を判定します。
当院の基本方針として「ADHDの拡大解釈をしない」ことを重視しています。
ADHD、自閉スペクトラム症の両診断基準に該当する場合、両者併存として診断するか、自閉スペクトラム症の症状として不注意・多動が見られるのか、判断が必要です。
反抗挑発症, 素行症症状評価、診断
まず全般的な行動障害の有無を伺い、可能性があればそれぞれDSM-5の診断基準に従って診断します。
間歇的爆発的症状評価、診断
間歇的爆発的症状、癇癪の有無を伺い、可能性があればDSM-5の診断基準に従って、気分循環性障害、重篤気分調節症などを診断します。
物理的心理的重大経験の評価
物理的心理的重大経験の有無を伺い、可能性があればDSM-5の診断基準に従って次の診断を行います。
- 心的外傷およびストレス因関連障害群反応性アタッチメント障害
脱抑制型対人交流障害
心的外傷後ストレス障害
急性ストレス障害
適応障害
- 解離症群解離性同一症
解離性健忘
離人感・現実感消失症
- 不安症群分離不安症
選択性緘黙
双極症状、統合失調症状
双極症状、統合失調症状の有無を伺い、可能性があればDSM-5の診断基準に従って診断を行います。
双極 I、II型は小児期には見られません。
気分循環性障害、重篤気分調節症に注意します。
知能・認知能力検査フィードバック
ウェクスラー理論系、ルリア理論系を中心に、当院で行った知能・認知能力などの検査結果を受検者にフィードバックし、学習、就労、生活での困り感改善に少しでもお役に立てることを目指しています。
ただし、これらの検査は対象となる能力発達を測定するもので、何らかの疾患、障害を直接診断する力は持っていない点はご理解いただいています。
教育・就学状況への支援
行動、学習の問題を抱えた方は、教育・就学の問題に直面することになります。
当院で得られた診断、治療の結果に基づき、適切な「教育の場」の選択、学習方法の指導、進路選択の助言、などを行っています。
精神療法・リハビリテーション
自閉スペクトラム症を対象に「こころ」の治療というより「行動」「技能」の治療を目指しています。次の点を重視しています。
◯スキナー行動学
◯感覚特性の把握、嫌悪刺激の除去。
◯認知特性の把握、視覚的情報重視。
◯先天的不可逆的特性としてのうけとめ。
◯臨床遺伝学的アプローチ
薬物療法
最近の薬物療法の進歩として、次の点があげられます。
★小児期の自閉スペクトラム症に適応を有する薬剤が増えている。
★抗精神病薬少量投与が、大量投与とは異なる有効性を持つことが明らかになってきた。
★抗多動薬が増えた。現在開発中のものも複数ある。
★非ベンゾジアゼピン系(GABA受容体に無関係の)の睡眠薬が増えた。
★漢方薬の有効性が明らかになっている。
これらに立脚して治療を進めます。
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