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「百人一首」教材を活用した、知的障害特別支援学校における試み

「百人一首」教材を活用した、知的障害特別支援学校における
「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」の試み

1)佐賀県立大和特別支援学校  居石俊二 畠山富士雄

2)佐賀駅南クリニック     久野建夫

KEY WORDS: 国語の指導、アクティブ・ラーニング、次期特別支援学校学習指導要領

Ⅰ. 背景

次期特別支援学校学習指導要領では、アクティブ・ラーニングの考え方が「主体的・対話的で深い学び」として示されている。
知的障害特別支援学校での「百人一首」の指導において、アクティブ・ラーニングの考え方に沿って授業改善を試みた。その結果を報告する。

Ⅱ. 目的

「百人一首」の指導において、話し合い活動の導入と電子黒板教材活用によりアクティブ・ラーニングに沿った授業改善を試み、その効果を検討する。

Ⅲ. 方法

1 授業の詳細

  1. 対象生徒:Y 特別支援学校中学部2 年生2 学級合同で、10 名中の障害程度が比較的軽い5 名を対象とした。教師2 名。
  2. 期間:3 学期13 日間の単元「百人一首を楽しもう」週3 ~ 4 回9:45 ~ 10:25 で行う。表1 に学習指導案を提示。

2 アクティブ・ラーニングの6 条件(Johonson による、涌井2016、以下「6 条件」と略) に沿って百人一首の授業の方法・内容を検討し、改善点を洗い出す。

3 生徒の態度、変容を観察する。

4 次の19 項目のチェックリストを用い、単元の前と後で確認する。

  1. 国語の力に関する5 項目。
  2. 6条件が実現されたかを問う6 項目。
  3. 百人一首の評価5 項目。
  4. 話し合い活動3 項目。/li>

チェックリスト及び結果は図2~5。ウィルコクソンの順位和検定を行った。

表1 学習指導案

1 題材名「百人一首に親しもう」
2 題材設定の理由 ○生徒観 本題材で授業を行う対象生徒は中学2 年生5 名(男子4 名、女子1 名)である。
比較的障害程度が軽いが、ひらがな拾い読みの段階の生徒から、小学校2~3年生の漢字の読み書きができる生徒までさまざまであり、差は大い。
能力は高いが自分の意見を出すことが苦手な生徒と能力は低いが自分の意見を出すのを好む生徒の集団である。
将来は就労支援施設で集団生活を希望している生徒がほとんどである。
○題材観 百人一首は古典の学習であり、日本の伝統的な文化に触れさせるというねらいがある。
また同時に声に出し、リズム感を味わわせること、視写により文字の練習をすること、暗唱をしておぼえることができるという達成感と自信を味わうことができ、主体的な学びにつながっていくのではないかと考える。
また、将来集団生活をする中で、百人一首に関する知識とゲームができるということは、余暇活動の充実にもつながっていくと思われる。
○指導観 指導にあたっては、主体的・対話的な学びを意識して指導する。
話し合い活動を取り入れ、質問の仕方などのひな型を提示しながら質問や感想を出させる(話し合いの際の配慮事項は後述)などアクティブラーニングの6 条件に沿って内容を検討した。
また各生徒の到達度に合わせ教材を準備する、視覚優位の生徒にわかりやすいように電子黒板を用いて視覚的に説明をする(興味を喚起して学習への動機づけ)など、特性に合わせた指導を行うことで生徒に達成感を味わわせ能動的な学習意欲を目指す。
3 題材の目標 ①百人一首の歌の内容が分かり、暗唱することができる。(知識・技能)
②百人一首のゲームに楽しんで取り組むことができる。(動機付け、学びに向かう力)
③自分の意見を出す、友人の話を聞くなど話し合いの基本を習得する。(対話)
4 指導計画 第一次 百人一首について知ろう。
(百人一首についての説明を聞き、理解する)—-1時間
第二次 歌の意味を知って声に出して覚えよう。
(電子黒板教材を作成し学習する。)
①百人一首の10 首を、上の句から提示し説明。
②全員で復唱。
③一人ずつ復唱。
④途中の一部を隠して、生徒が回答。
⑤全員と個別に復唱。
⑥意味がつかめない語句について質問や話し合い。
⑦視写。
⑧最後に、背景や分からない語句等の質疑を含めた話し合い。
(歌の解説、暗唱、質問し意見交換、視写)—-9時間
第三次 百人一首のゲームをしよう。
(歌の復習、動画鑑賞、カードづくり、ゲーム)—-6時間

Ⅳ. 結果

  1. (方法1 に関して)電子黒板教材を図1に示す。
  2. (方法2に関して)改善点として
    (1)話し合い活動の場の設定
    (2)視聴覚機器の利用の2 点をあげた。
  3. (方法3に関して)
    ①「最初は指名して全員何か質問をするように促す。」
    ②「質問の例を示したり、質問の仕方について雛形を与え、自分の表現に対して自信を持たせる。」
    以上の2 点に配慮し、話し合い活動では、簡単な質問ではあったが、和やかな雰囲気で生徒の
    意見や感想を引き出せ、意見を出す、話を聞くの基本を学ぶことができた。
  4. (方法4に関して)
    ①中学校国語科第2 学年評価の観点から検定の結果、言語に関する知識・理解・技能の項目に関しては有意な差が認められたが、その他の項目では有意な差が認められなかった。言語に関する知識・理解・技能は高まったと言える。(図3)
    ②涌井の6条件による評価の観点から
    互恵的相互依存関係と個人の責任の項目に関しては有意ではないが、その他の項目に関しては有意な差が認められた。アクティブラーニングの条件を満たすには有効であった。(図4)③百人一首の学習における評価の観点から
    すべての評価の観点において、検定の結果「有意に差がある」という結果であった。百人一首の学習という点で効果的であった。(図5)
    ④話し合い活動における評価の観点から
    ウィルコクスン検定においては「有意ではない」という結果であったが、生徒個人を見ると伸びている生徒が見られた。(図6)

Ⅴ. 考察

今回、百人一首の授業で主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善を試みた。本授業以前には、生徒の側から意見を出す場面はなく、与えられた課題をこなす授業形態であった。

しかし今回、生徒の対面的なやり取りを重視し、生徒たちに不明な語句等の質問を必ず問うよう呼び掛けたところ、拙いながらもそれに応じようと質問を出す中で、生徒たちは友達の意見にも真摯に向き合い、自分なりの予想を出すなど対話的な学びに近づくことができた感がある。

電子黒板教材で語句を視覚的にイメージしやすくなり、生徒の質疑も増えた。聴覚認知能力だけに頼らないことから個々の意欲も伸び、生徒の質疑も増えた。平仮名拾い読みレベルの生徒も語句の理解ができ、歌を暗記できるまでになるなど学習効果を高めることができた。

アクティブラーニングの意義は知識・技能、思考力・判断力・表現力等学びに向かう力や人間性など情意態度等に係るもの全てをいかに総合的に育んでいくかということである。

今回の授業では、興味を喚起し、学習への動機づけを行い、知識・理解の伸長のみならず、話し合い活動を取り入れることにより普段発言することにない生徒も何とか発言しようとするなど学びに向かう力が育まれ、意義のある授業であったと思われる。

(文献)
佐原恒一郎(2008): 日本教育情報学会第24 回年会報告集,112-115.
畠山富士雄・久野建夫他(2015a):佐賀大学文化教育学部研究論文集第19 集第2 号,15‐35.
畠山富士雄・久野建夫他(2015b):日本特殊教育学会第53 回大会,P4-3.
涌井恵(2016):.LD 研究第25 巻第4 号,398-405.
( 倫理的配慮) 個人情報保護等の必要な倫理的配慮を行った。
(SUEISHI Syunji, HATAKEYAMA Fujio, KUNO Tateo)

 


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小児科・内科
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